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名札

俺は、「人間」という名札を付けただけの、実体のない存在だ。
ゆえに、人はその浮遊している名札を、いぶかしげに眺める。
そして、実体が無いとわかると、俺の中を素通りしてゆく。
何事もなかったかのようにだ。
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夜明け

明けない夜はない、などというひどく凡庸なセリフは、俺には通用しない。

前向きに歩いている、あるいはうずくまっていても移動しない人間には、やがて夜明けは来るだろう。

だが俺は、地球の自転とは反対方向に同じ速度で、後ろ向きに歩き続けているのだ。

つまり、俺は夜明けから逃げ続けているのだ。
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衰弱

俺の精神力は、日に日に衰弱している。

それは、今に始まったことではない。
さかのぼれば、20代の頃から感じていた違和感が発端だ。

その違和感は、やがて心を侵食し始め、今では俺の全身に行き渡っている。
そして俺は、透明な存在という完成品になってしまった。

俺の発する言葉や行動は、もはや誰の目にも止まらない。
なぜなら、今の俺の精神力は、虫の息以下だからだ。
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抹消

意味のない人生など存在しない、とよく言われている。

だが俺は、それに異議を唱える。
俺の人生に意味を見出すという作業は、それこそ意味のない作業だ。

俺のような透明な存在を創り上げてきた人生に、何の意味があるというのだ。
ただただ生き辛さを感じるだけの、こんな窮屈な人生に、何の意味があるというのだ。

俺の人生など、抹消したい。
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どこに出しても恥ずかしくない人間、という表現がある。

今の俺は、その真逆な人間だ。
社会のいかなる環境に身を置いても、たちどころに萎縮し、やがては透明な存在となり果てる。

俺は一体、いつからこのような使い物にならない人間になったのだろうか。

俺の生きていく術が、全く見当たらない。
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